皮膚の保湿の考え方を書いておきます。

 まず、皮膚の構造を理解してください。皮膚は大きく表皮と真皮に分かれています。

ネットからの画像


真皮は血流が豊富です。皮膚の赤みは真皮に流れている血液の色です。

表皮は薄くて、血流はほとんどありません。また、真皮までは神経が走ってますが、表皮にはありません。

皮膚がペリッとめくれることがあるでしょう。あれは表皮がはがれてるのです。痛くないですね。

深く切ったりすると痛いし血が出ます。これは傷が真皮にまで到達しているからです。





気温が下がると、皮膚が乾燥します。気温が下がることで皮膚の血流が減ることに加え、現代の家庭ではエアコンを使うことが多いので、空気が乾燥すること、が主な理由です。

表皮は十分な水を含むと外からの刺激に強いですが、乾燥すると軽い刺激でも真皮に伝わりやすくなります。水を含んだしっとり肌だと十分な保護作用があるのに、乾きすぎると表皮が薄くなるとイメージしてください。

すると、ちょっとした刺激が表皮の下の真皮まで伝わりやすくなります。だから神経末端が刺激されて、痒みが出るのです。
※痒みはごく弱い痛みです。痛覚神経が軽く刺激されることで痒いわけです。


ここまで良いでしょうか?皮膚は表皮の水分が大切だということですね。


さて、皮膚の状態はお子さんによって随分違います。しっとりとした子もいるし、ガサガサの子もいます。お父さん、お母さんの皮膚と似ていませんか?実は、皮膚の強さは遺伝要素が大きいのです。これは表皮を構成するタンパク質が遺伝子によって決まってるからです。両親のどちらかがアトピー性皮膚炎だと、お子さんもアトピーや乾燥肌になりやすいですね。遺伝子を取り換えることはできません。

ですが、皮膚の水分量は体質だけでなく、他にも大きな要因があります。なんだか分かりますか?


それは、皮膚の上の細菌です。皮膚の上には常在細菌叢と呼ばれる細菌が住んでいます。その中の善玉菌(表皮ブドウ球菌)がグリセリンを分泌するのです。
グリセリンは表皮から水分が逃げるのを防ぎます。ですので、たっぷり常在菌を持っていると皮膚が強くなります。


なぜわざわざ菌がグリセリンを分泌するかというと、菌自身のためです。善玉細菌は外部からの競合する菌の侵入を避け、自らが増殖しやすいようにグリセリンを分泌してるというわけです。細菌が考えてるやってることではなく、グリセリンを分泌する遺伝子を持った細菌が皮膚の上で生き残りやすかったのですね。結果として細菌は皮膚を守り、ヒトと共生することになったのです。ヒトは700万年もかけて進化してきた生物です。その過程で体毛を失ったヒトは、善玉菌の鎧(よろい)をまとうことになったのかもしれません。

今の子どもは乾燥肌が増えていますが、常在菌が定着しにくいことが大きな原因だとわたしは考えています。皮膚の上の細菌は皮膚を守るために必要なわけですから、できるだけ石鹸を使わないようにして下さい。石鹸が使われるようになったのは明治時代以降です。もともと赤ちゃんの遺伝子は、石鹸で洗われることを想定してなかったのです。


ですので、当院の乾燥肌の方針としては、シンプルに下記としています。

1、もともと乾燥しやすいお子さんでは、できるだけ石鹸を使わない
 常在細菌叢を守るためです。

※汗をかいたとき、皮膚がジュクジュクした時には石鹸を使ってください。

2、常在細菌にダメージを与えるような薬剤は皮膚に塗布しない。
 お勧めはグリセリン水です。スプレーで振りかけるだけで簡単です。1日に何度か噴霧することで皮膚の乾燥を防ぎます。

3、ひどい湿疹は速やかに治療する。
 湿疹のひどいのって、黄色ブドウ球菌等の悪玉菌が増えます。皮膚の炎症がこういった悪玉菌のえさですので、ステロイド軟膏を使って速やかに炎症を抑えてください。悪玉菌が持続的に感染するとアトピーの原因になります。


残念ながら、一生懸命皮膚をきれいにしようと思うと、かえって乾燥肌の体質を作ってしまいます。それがアレルギーにも関係してます。実際、アレルギーは先進国の病気でしょう。発展途上国では少ないのです。


スキンケアがもっとも大切なのは生後6ヵ月までです。なぜかと言うと、皮膚炎から食物アレルギーを作るからです。1歳を過ぎれば適当で良いですよ。むしろ、やり過ぎないようにして下さい。実際、湿疹のない赤ちゃんだと、毎日入浴して保湿剤を塗れば塗るほど将来のアレルギーが増えるという大規模データがあります。ここ



何もしないグループ(一番左)と比較して、一番右の日に何度もスキンケアするお子さんでは、かなりアレルギーが増えていますね。これは恐らく常在細菌叢を攪乱してしまうためです何事も“過ぎたるは及ばざるが如し”、スキンケアに熱心になり過ぎると逆効果になることさえあるってことです。


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当院の保湿剤の考え方