乳幼児の新型コロナワクチンについて

当院では生後6ヵ月から新型コロナワクチンの接種を勧めています。

このワクチンに関してはかなり情報が混乱していると思いますので、ここで整理しておきます。

 まず、ワクチンの成分ですが、成人用のワクチンと同じで、mRNAという小さな遺伝子が入っているものです。安全性については後述します。乳幼児用の接種量は10分の1になっています。成人用ワクチンで熱が出たり、痛みが出たりしたでしょう。そういう副反応を少なくするためです。特に5歳までのお子さんは、熱性けいれんが起こることがあり、できるだけ発熱の副反応を抑えたいのです。実際、発熱や局所の痛みは成人のワクチンよりも少ないようです。

 接種回数は3回で、最初の接種から3週間で2回目の接種を、次に8週間間隔を開けて3回目の接種を行います。免疫を長続きさせるためには、さらに半年から1年あけて接種することになると思います(現時点では4回目の接種は未定)。

 次に、効果ですが、かなり効きます。乳幼児用ワクチンを3回接種して免疫を付けておくと、ワクチン効果は75%程度とされています。これは、非接種のお子さん100名のうち50名がコロナを発症したとすると、接種済みのお子さん100名は12-13名しか発症しないということです。もちろん、かかることもあります。コロナウイルスはインフルエンザと同じく粘膜に感染するウイルスです。血液に感染する麻しんのように100%近い感染予防効果は理論上難しいのです。インフルエンザだってワクチン接種してもかかるでしょう。それと同じことです。

下の図は粘膜の簡単な模式図です。



 ワクチンはリンパ球を刺激してIgG抗体を作るのですが、この抗体は原則として血液の中(赤いところ)にあります。ウイルスは粘膜細胞に感染するので、そこをブロックするのは理論上難しいのですね。

 ワクチン接種直後はIgGがものすごく大量に作られます。すると、粘液まで出てくるので、感染を予防する効果があります。ですが、リンパ球は他にも様々な抗体を作らなければいけません。いつまでもコロナの抗体ばかりを作っていると大変です。ですので、刺激がなくなると徐々にIgGが作られなくなり、抗体価が下がってきてしまいます。こうなると粘膜を守ることができず、感染しやすくなるのです。

 しかし、大切なのは免疫記憶があるということです。リンパ球はIgG抗体が必要だとずっと記憶しているので、少量のIgG抗体を作り続けます。この抗体は血液中など大切な体の深部はずっと守ってくれます。また、いざウイルスが入ってくれば速やかに多くの抗体を作るように常に準備してあります。抗体価が下がって感染が防げなくなっても、重症化を防ぐのはこの免疫記憶があるからなのです。免疫記憶は長く続きます。小さい頃に麻しんのワクチンを接種すれば、ほぼ一生かからないでしょう。それと同じことです。コロナワクチンを接種するとひとつ強くなるのは間違いありません。その免疫はお子さんにとって一生の宝になります。

※ワクチンするとかえってコロナにかかりやすくなるというのは単なるデマです。あり得ません。

 ワクチンをしてもかかってるじゃないかって思われるかもしれませんが、次のグラフを見てください。



これはにしむら小児科を受診して、新型コロナウイルス感染症と診断した12-19歳までの方の、ワクチン接種と最高体温の関係をプロットしたものです。3回接種で高い熱が出にくくなるのが分かります。そもそも、3回接種していれば発症しにくいので受診していない方も多いでしょう。そう考えると3回接種の効果は絶大です。2回しか接種してない人は3回目を接種しないと損ですよ。特に小児だと高熱が脳症のトリガーになるので、ぜひ接種して欲しいものです。


※小児の新型コロナで最大の合併症は、心臓と血管に炎症を起こすMIS-Cと呼ばれる病気です。コロナに感染した後に2-4週で発症し、死亡例や後遺症例も多数報告されています。ワクチンがこの病気の発症を90%以上防ぐことが分かっています。データはここ


 気になる安全性ですが、たくさん副反応の報道がされていますね。実は新しいワクチンが導入されて、初期に副反応の報告が多いのは当然なのです。これはどこの国でも、どのワクチンでも起こりますのでウェーバー効果って立派な名前が付いています。ワクチンを接種してもしていなくても、人は毎日病気になったり死亡したりしていますが、ワクチンで特定の病気が増えないかを監視していく必要があります。そのため、大規模なワクチン接種だとその後の有害事象に関して全て報告するシステムになっています。

※いま、皆さんが接種しているインフルエンザワクチンも、その後色んな病気や接種後死亡がいるはずです。報道されないだけです。

 ワクチンの導入初期は副反応がはっきりしないので、因果関係がないと思われるものまでこのシステムに全て報告されるのです。過去にヒブや肺炎球菌ワクチンが導入されたとき、その後の乳児死亡が頻繁に報告されました。新聞にも大きく出たのを覚えている人もいるかもしれません。ですが、実際には死亡との因果関係はなく、今ではほとんどのお子さんが接種し、多くの重症感染症を防ぐことができています。同時接種が危険だとか、免疫を落とすからだとか、根拠のないこと言う人もいっぱいいました。今の騒ぎと同じです。HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関してはもっと悲惨で、因果関係のない症状によってワクチンが一時停止されてしまいました。その結果、数千人の女性が子宮頸がんで命を落とすことになると推計されています。これはちょっと看過しがたい数字です。人の命って大切ですからね。

※以前から当院受診時にHPVワクチンを接種してくださいというパンフレットをもらった方も多いと思います。

 ワクチン後死亡が大きく報道される場合、大切なのは接種したワクチンが本当に死亡の原因になったかどうかです。接種後死亡とワクチンが原因の死亡は違うものです。なお、今回のコロナワクチンでは、接種後死亡のうちワクチンと少しでも関係性がありそうな例まで広く補償対象としています。ワクチン後の脳出血などもそうです。ワクチンそのもので出血することはないので、もともと出血しやすい状態だったものが、発熱や痛み等のストレスによる血圧変動などで発症したのかもしれない、と判断されているようです。残念ながら、高齢や持病でちょっとしたストレスでも亡くなる人はたくさんいるのです。ただ、健康な子どもではそういうことはありません。もちろん、ワクチンのために子どもがたくさん死んでいるなんてこともありません。一部の人たちが作った単なるデマです。

※現在まで小児でワクチンが原因の死亡と認定された例はありません。

 またワクチンがmRNAというごく少量の遺伝子だということに不安を持つ人もいます。ワクチンを打つと卵巣に溜まるとかいう実験データで脅かすような人もいますね。動物実験で、このワクチンをものすごく大量に血液に入れたとき、卵巣でその遺伝子が発見されたそうです。ですが、そもそも遺伝子って体内に入ればあっという間に分解されてしまうので、血液の中で大量に存在することなどあり得ません。もともと動物は進化の過程で自分以外の遺伝子を体に入れないように、入ってきても速やかに分解するようにしてきたわけです。そうでないと、子孫を残せませんからね。


 ところで、遺伝子って怖いですか?いま、人が食べている食料なんて遺伝子の塊ですよ。肉なんて特にそう。食べた後、ある程度体内に吸収されても、あっという間に分解されてしまいます。また、あなたが、蚊に刺されたとするでしょう。それだけで大量の遺伝子が体に入ってきています。蚊に刺されたり、肉食うときにわざわざ心配しますか?わたしなんてまったく考えもしませんが。

 今後、子どもの間でコロナが流行し続けます。流行初期には子どもの感染者は少なかったのですが、コロナウイルスは子どもに感染するように変異してきたのです。成人はほとんどの方はワクチンしてるでしょう。そのため、守られています。ところが、様々なワクチン忌避の情報があふれていて、子どもにワクチンを接種させる方は少ないのが現状です。この状況のままだとちょっと怖い、とわたしは思います。おそらく今後数百名のお子さんが重症化したり命を落とすことになるでしょう。ワクチンを接種すればその大部分を防ぐことができます。なお、既にコロナに感染した場合でも、十分な免疫ができないのは実証済みですので、今からでもワクチンの接種をお勧めします。

 子どもさんに新型コロナのワクチンを接種した場合、そのために命を落としたり、将来にわたり副反応で苦しむ可能性などほぼゼロです。

※ほぼ、と書いたのは何事もゼロと言い切ることはできないからです。天文学的に低いとしか書きようがありません。


 一方、ワクチンがお子さんを免疫的に強くし、接種後の死亡や重症化リスクを下げることは間違いありません。

 いま、多くの方が接種をためらうのは、“不安”だからでしょうね。いえいえ、ぜんぜん大丈夫ですよ。これほど世界中で厳密にデータが取られているワクチンは過去にもありません。安全性はこれでもか!というほど確認されていますよ。



Top